Soapsuds

幼稚園ではこの時期、お母さんたちが集まって合唱を練習している。その課題曲、ハレルヤ!コーラスで知られるヘンデルのオラトリオ「メサイア」のCDを図書館で借りて来てくれ、とのリクエストにこたえるべく検索端末に向かったが、あいにくすべて貸し出し中。で、棚を眺めて、オーネット・コールマンとチャーリー・ヘイデンのデュオ「Soapsuds」、ペギー・リーの「貝がら」、ラムゼイ・ルイス・トリオの「The In Crowd」の3枚を借りる。

ラムゼイ・ルイスは、昔よく聴いたのにどうもピンとこなかった。でもオーネットはいい。買ってもいいなあと思い、アマゾンで調べるとなんと在庫切れ。ペギーはいつもどおり、超脱力系だ。

オーネットというと、大学のころ仲のよかったオサムくんを思い出す。ジャズ研のベース・プレーヤーだった彼は、でかいウッドベースを抱えながら汗だくで研究室にやってきて、よく音楽の話をした。といってもベース・プレーヤーかフリー・ジャズのことばかりだったが。その影響で当時はずいぶんチャーリー・ヘイデンとかドン・チェリーとかのCDを買った。当時もいまもお気に入りはエド・ブラックウェルとドン・チェリーが作った「El Corazon」というアルバム、素敵過ぎる。だが、オーネットに関してはなかなか食指が伸びなかった。そんなある夏、オーネットが来日するというので、よみうりランドイーストまで彼と一緒に見に行った。調べてみると1986年のことだったようだ。

残念ながらそのときの演奏についてはあまり覚えていない、サックスとヴァイオリンを持ち替えながら、いわゆるオーネット節全開だったと記憶しているが、定かでない。そのときの音楽よりずっと印象に残っているのが、オサムくんの言葉だった。会場近くを歩きながら、沈みゆく真っ赤な夕日を見て、彼は急に「夕日が赤いぜ」といって涙を流しはじめた。涙のわけを尋ねると、「アニキが死んじゃったんだ」と言う。

彼とはずいぶん親しいつもりだったけど、兄弟がいたとはそのとき初めて知った。オーネットの演奏と真っ赤な夕日が、彼の記憶に格納されていた兄とのさまざまな思い出を引き出したのだろうか。何でもないシーンなのだが、20年以上経ったいまでも忘れられない。

きょう借りたオーネットはテナーでやさしいメロディを静かに奏でている。わたしの持っていたオーネットのイメージとはちょっと違う印象で、すごくいい。食わず嫌いのリスナーに最初にお勧めしたいものだ。オサムくんは会うたびにオーネットのCDを薦めてくれたが、このCDのこともきっとふれていたに違いない。出会えてよかった。

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