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“つくづくアメリカが羨ましい。  なんたって、ジプシー飛行士だ。こんな商売が成り立つのは、アメリカとオーストラリアぐらいだろう。アルゼンチンも、なんとかなるかな?  広く平坦で、人口がまばらな土地。航空燃料(どうやらハイオクのガソリンらしい)や航空機の部品が潤沢に手に入る程度に、産業が発達し工業製品が人々に浸透した社会。ただし勝手気ままに空を飛んでも文句を言わない程度に緩い政府と航空管制。  幾つもの植民地がそれぞれに発達し、その連合体として州政府と連邦政府ができたアメリカ合衆国ならではの、自由と産業力、そして末端までは管理が行き届かない政府など、幾つもの条件が重なって成立した、絶妙のバランスの上に成り立つ商売である。  とまれ、実際に飛び回るリチャードら一行は、そんな難しい事なんか考えちゃいない。単に「とりあえずやれるかどうか試してみようぜ」ってな感じで、稼ぎながらその日その日を過ごしてひと夏を楽しもうとする、お馬鹿な野郎三人組の気楽な旅のお話だ。  そんなわけで、作品としては、ちょっと変わった飛行機物語としても楽しいし、ドサ回りの小さなサーカスのルポルタージュとしても面白い。  やっぱり飛行機に熱中するのは、ガキどもである。人口776人の小さな町リオでは、リトルリーグの試合を見ていたガキどもが、二機の飛行機とステュのパラシュート降下で大騒ぎで、週末には大繁盛だ。いい土地ばかりとは限らないが、町の人とソリが合えば大儲けできる。  ばかりでなく、曲芸飛行を披露するパイロットは大人気で、サインをねだられることだってある。もっとも、最大のヒーローは…。わはは。でも、ガキどもの気持ちはわかるなあ。私も、ガキの頃、近くに飛行機が止まったなんて聞いたら、きっと走って見に行っただろうし。  もっとも、世の中いい事ばかりとは限らず。夜にシャツを干そうとすれば朝露で濡れちゃうし、寝ようとすれば蚊の大群に襲われるし、珍しく屋根のあるねぐらにありつけたと思ったら…。こういうへっぽこな旅も、気の合う相棒とだったら、それなりに楽しめるんだよなあ。そんな旅日記としても面白い。  お客さんも楽しんでるようで、単葉機のラスコムと複葉機のパークス、それぞれに乗った客が「どっちがいいか」で語り合うあたりも、飛行士としては気分のいい所。子供たちにいい所を見せようと一計を案じる親父さんとかもいて、なかなか微笑ましい。いい父ちゃんだなあ。  意外と楽しんでるのが年配の人で、かつてのジプシー飛行士の想い出を語ってくれたりするのも、ちょっとホロリとする。ばかりか、飛び続けると、かつてジプシー飛行士だった人まで登場するから、アメリカも広いようで狭い。他にも様々な飛行機仲間が登場しては、ちょっとした思い出を残してゆく。  中でも印象的なのが、スペンサー・ネルスン。「イリュージョン」にも登場したトラベル・エアーに乗り、はるばるネブラスカから駆けつけた勤め人。なんちゅう贅沢な休暇の過ごし方だ。  そうやって飛び続けるうちに、リチャードは商売も巧みになtってゆく。と同時に、人はどんな環境にも慣れるのか、ジプシー飛行士の日々が単なる繰り返しにも感じてきて…  口数少ないステュの意外な秘密、常に最悪を想定するパイロットならではの注意深い視点、バラエティ豊かな客の数々、様々な立場で飛行機を愛する仲間たち、そして次から次へと降りかかるトラブル。  呑気な三人の男が、気分次第で行く先を決めたドサ回りのヘッポコ道中。あまり知られることのないアメリカの田舎を見せてくれると共に、一種の旅芸人の気分も楽しめる、ちょっと変わった旅の記録。”

? リチャード・バック「飛べ、銀色の空へ」草思社 稲葉明雄訳: ちくわぶ

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