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(「神は細部に宿る」を実感させる数少ない建築家だった→「美術館建築の名手」谷口吉生氏の訃報で、同氏が手掛けたコレクションの数々を偲ぶ – Togetter [トゥギャッター]から)

谷口吉生の作品で一つ挙げると、葛西臨海公園レストハウス。ただのガラスの箱と思いがちだが、中に入ると明らかに空気感が違う。カーテンウォールの方立(ほうだて)と無目(むめ)はボルト一切なしの全溶接構造。でもモコモコした溶接の痕がない。で、よく見ると溶接痕を全部削って平滑にしてある。そこまでやるかという。

内壁の50mmタイル壁も、そこらの公共トイレとかの壁タイルとは明らかに質感が違う。近づいてみると目地幅が狭い。普通の5mmではなく2.5mm。で、タイルは普通の45mm角ではなく47.5mm。つまりタイル会社に特注ロットで焼かせたタイルを使用。目地幅を詰めるとこんなに質感が変わるのか、と驚いた。

「キレキレ」と書いたが、谷口吉生の作品は人を突き放すように冷たく鋭利なわけではない。私が見た実物はどれも静謐で軽やかで心が安らぐ。その静謐さを生み出す原動力が緻密な空間構成とディテール。自然光や景色を見事に取り込んだ空間を、光に誘われるように巡っていくのは得難い体験。

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(以下、細かい話)
上で書いたレストハウスの「執念のディテール」は、谷口が施工業者に無理強いしたわけではない。竣工後の「建築技術」誌か「ディテール」誌?で読んだが、「溶接痕の削り取り」や「47.5mmタイル」は詳細図に明記してあった。つまり施工業者は予め承知のうえで受注したはず。

レストハウスは、凡百の設計者ならカーテンウォールの方立と無目(骨組み)をH鋼+耐火被覆+アルミカバーにしただろう。それだと寸法が数倍太くなり、全体像があそこまで軽やかにならない。谷口は耐火被覆不要の耐火鋼を使い、かつ溶接痕を削ることで極限まで骨組みを細く見せたかったわけ。

また、耐火鋼を使ったとしても、フツーの設計者なら、溶接のモコモコした余盛を削り取らずにアルミカバーを被せてコーキング、の納まりに逃げただろう。それでもざっと倍ぐらいの太さになってしまうか。

むろん、施工は難しい。カーテンウォールは輸送可能な範囲で工場製作するにせよ、現場溶接でどうしても歪みは出る。しかも構造体とガラス枠を兼ねるから一切「逃げ」がない。一直線に通りを出すのは大変だったはず。あちこちに仮補強を入れつつ、歪みを測定しながら慎重に溶接したのだと思う。

また、タイルの施工難易度も高い。目地幅が普通の5mmだと、たとえばタイルが1mmズレても「5mmのなかの1mmのズレ」は遠目にはわかりにくい。しかし目地幅2.5mmだと、1mmズレると大きく目立ってしまう。
…いや、細かすぎる話で申し訳ないが、施工屋から見ると谷口建築は唸るところばかりなのよ。

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