相手が時間に遅れても平気なように、だいたいいつもバッグやコートのポケットに文庫本を一冊しのばせる。約束の時刻を過ぎたら、おもむろにそれを取り出して、開く。本を読んでいれば、五分、十分、三十分でも平気で待てる。
「ごめん、待った?」
声をかけられたら、顔を上げて本をしまう。
「ううん、全然」
「何読んでたの?」
そう訊かれれば、会話のはじまりに困ることもない。
本は待ち合わせにちょうどいい。? 藤田雅史著『ちょっと本屋に行ってくる。 NEW EDITION』(2023年11月、issuance)