その丘のなだらかなスロープからは、彼の生まれた町を一望のもとに眺めわたすことができた。そこで彼は日没を待ち受ける。夜が来ると、とたんに町は生命を吹き返し、魅惑的なパノラマを広げてくれる。数々の尖塔、切妻駒形屋根が、橙色から緋色に染まっていき、さらに残照に映えて青貝、あるいはエメラルド色の輝きを見せ、それから、家いえの窓にひとつ、またひとつと灯がともされていく。広大な、今も広がりつつある町は、さながら一個の魔法の国と化すのだ。そんな夜の町に対して、フィリップスは昼の町よりずっと強い愛着を抱いていた。
