“ところで、先ほどからその少年のことを無断で「私」呼ばわりしているが、少年のほうで今のこの私を自分だと認めてくれるかどうかは甚だ心許ない。何しろ今の私ときたら、いい年だし、髪は白いし、ふてぶてしい太鼓腹だし、どうしようもなくだらしない男なのだ。少年はひどく驚くだろう。ほんとにこれがぼくなの、と。そう聞かれて、まごつかずに答えられるかといったら、たぶん無理だろう。私の名前が少年と同じだからといって、そんなことには何の意味もない。”
? ミハイル・シーシキン 「バックベルトの付いたコート」
Bent my ear to hear the tune and closed my eyes to see
“ところで、先ほどからその少年のことを無断で「私」呼ばわりしているが、少年のほうで今のこの私を自分だと認めてくれるかどうかは甚だ心許ない。何しろ今の私ときたら、いい年だし、髪は白いし、ふてぶてしい太鼓腹だし、どうしようもなくだらしない男なのだ。少年はひどく驚くだろう。ほんとにこれがぼくなの、と。そう聞かれて、まごつかずに答えられるかといったら、たぶん無理だろう。私の名前が少年と同じだからといって、そんなことには何の意味もない。”
? ミハイル・シーシキン 「バックベルトの付いたコート」