人それぞれの感情と記憶、身体奥深くに呼びかけ、対話を交わすことこそがわたしの目的だからです。だからと言っていつもうまくいくとは限りません。匂いを嗅いでもその脇を素通りする人もいます。しかしわたしは、自分が調香した香水の一つ一つを通し、匂いを嗅ぐ行為の驚異的な力と喜び、そして匂いがもたらしうる意味を、それを望むすべての人々に届けたいと思っているのです。香りのアーティスティックな次元を捉えるのです。それは、ブロックバスターを仕掛けようと大衆におもねったノートを主軸に据える商品開発戦略とはまったく異なっています。きれいなパールを糸に通せば美しいネックレスが作れるわけではありません。香水の概念自体が異なっているのです。
「感覚にとって意味のあるものを作り上げたい」という意思は、単にいい香りの商品を作る作業と自分とを隔てるものなのです。