こういったことについて思考を深めるうち、わたしは二〇二〇年に《レ ゼピュール ドゥ パルファン》[純粋]コレクションを立ち上げるに至りました。大プリニウスの『博物誌』にある絵画の誕生の神話、陶工のブータデスの娘が、異国に旅立つ恋人の姿を思い出にとっておくために、壁に映った影を粘土で縁取ったという物語から想を得ました。わたしは香水もまた、不在の穴を埋めるために生まれたのではないかと想像しました。つまり自然の不在、です。自然の匂いの虜になった人間は、それが鼻先にない時にも再び匂いを嗅ぐことができる方法を求めたのではないでしょうか。そして、その美を手に入れたいと望んだのでしょう。貴石の美しさを我がものにするためにジュエリーを生み出したように。香水もジュエリーも、自然が我々にもたらす感動とその素晴らしさを手元に留め、自然の力を身につけたいという人間の欲求から来ていると思われます。香水も宝石も、それを身につけるものにオーラを与え、輝かせ、力をもたらしてくれます。だからこそ、香水も宝石も長いあいだ権力者の特権だったのでしょう。しかし現在では、香水が自然と結びつけられることはなく、その起源さえ忘れられてしまうに至りました。わたしは、この起源をよみがらせたいと願ったのです。そうすれば、香水は我々が自分たちを取り巻く環境と再びつながることができるのであり、それが、現代の香水が担うべき本質的な役割だと個じるからです。しかしそのために自然の資源を枯渇させてしまう選択は考えられませんでした。わたしは、自然を再現するのに自然破壊を行なう必要はないと示したかったのです。それは、まさに合成香料によって可能なのです。〈ピュールキンカン〉〈ピュールマニョリア〉〈ピュールミュゲン〉〈ピュールローズ〉は現実以上に現実的な調合で、ほとんど天然香料を使わずに自然を感じる喜びを与えます。この香水のコレクションにおいては、本当に不可々な場合にしか天然香料は使いませんでした。そのことにより、我々が自然を愛し、その美を示したいときに、天然資源を使わなくてもいい、それどころかその反対だということを証明したかったのです。