ラーメン あたみは神田駅のそばにある変わった店だ。忙しくて夕食を逃していたわたしが仕事帰りの道すがら、何か食べるものはないかと探していたところに飛び込んできたのが黄色い旗の「あたみ」。予定としてはガード下にある有名な卵料理の店、もしくはクイックな吉野家という感じだった。しかしラーメンも悪くない、と店先に出てるメニューを見てみると比較的安い値段で食べられることが分かったので、ちょっと奥まった入り口へと向かった。「夜はお酒飲めます」という但し書きが気になったが。
そして、はめ込みガラスの引き戸を開けると、そこはには仕事帰りのおじさんたちが焼酎を傾けながらラーメンをすする姿があった。当たり前か。しかし、ラーメンのメニューはあるのに、飲み物のメニューは店内を見回しても見つからない。あすも仕事だから飲む気もなかったので、とくに気にしなかったが、どこかで見たようなブランド焼酎の一升瓶が一番目立つところに並べてあり、焼酎が売りなことが分かる。
そして、わたしは野菜ラーメンをチョイス。650円。自家製麺にしては安い。そしてこのエリアには私が人生でもっともマズいと感じたラーメン屋もあったので、不安がないわけではなかったが、それはそれと腹をくくって待つ。主人は悠々とフライ返しを手にすると、使い込んだためか、はたまたそれがスタイルなのか先端が激しく反り返った金属部分を使って不器用な感じで野菜を炒めると、つぎは麺にかかった。
おーこれが自家製なのかと思うまもなくお湯に投入され、しばし待つこと3分くらい。しかし、まだ上げない。それからしばらく麺を慈しむようにお湯の中でかき混ぜ続けるオヤジ。あー失敗したか・・・という思いが頭を過ぎる。椎名誠の本を読んで、ラーメン屋に緊張感があってはいけないと書いてあったが、ここはそんな緊張感とは無縁な世界である。いつまでたっても麺をゆで続けるマスター。あれじゃグダグダ麺になっちゃう、と半分あきらめたころようやくスープを準備、満を持して麺を器に上げると先ほどの先端が反り返ったフライ返しでまたまた不器用に野菜を盛る。ここまでで私の期待値はかなり低くなっていた。
そしてようやく私の目の前にレンゲを添えられて登場。
スープをヒトすすり。悪くない。そして麺をほお張った次の瞬間、ムムム。こ、こ、これはいったい。どういうわけなのか。この腰はいったい。麺がウマイ。野菜も歯ごたえを残した絶妙の炒め具合。これはおいしい。あとはゆっくり味わいながら最後までいただいた。店のプレゼンテーションとこのラーメンの完成度。なかなか結びつかないと思う。夜23時までの営業は呑み助オリエンテッドな姿勢ながら、店の中にはラーメンのメニューのみというわけが少し分かった。ここはラーメン屋なのであって、けっして飲み屋ではない。あしたは酒を頼んでみよう。