よく世に出ている「ベスト・アルバム」なるものを、たまに自分で考えてみることがあるけれども、そんなにずれていないと思う。たとえば、ボブ・ディランとかローリング・ストーンズだとかのアルバムだったり、グレイトフル・デッドの1枚だったりすることもあるけど、たとえばそれらは「ローリング・ストーン」誌の選ぶオール・タイム・ベスト500枚の中にはたいがい含まれる。事実、今回自分で本当に気に入っているんだなあと思ったマービン・ゲイの「Here, My Dear」にしても462位にランクインしている。はたして、300位と400位の違いは何なのかよく分からないけれど、もうこのへんまでくると、知っている人がまわりにあまりいなくなってくることは確かだ。
私がこのアルバムを知ったきっかけは、ある音楽雑誌に掲載されていた記事だ。それはマービン特集号で、すべてのオリジナル・アルバムについて日本の音楽記者、評論家(?)たちが書く個性的なレビューを読むことができた。その中でこのアルバムについてはミュージック・マガジン誌のコラム「じゃずじゃ」マーク・ラパポート氏が書いていたと思う。その中で自分の最も好きなマービンのアルバムがこのアルバムであることを強調していた。94年に初めてCD化されたらしいが、自分もやっとこの盤を聴くことができたのが当時とても嬉しく、憧れの人にようやく会えた気持ちとでも言ったらいいのだろうか、もう毎日のように聴いた記憶がある。
とはいえ、マービン自身の離婚をネタにドロドロ愛憎劇の大作、しかもライト・モチーフのように繰り返し演奏されるフレーズが全体を統一しているため、どの曲が好きとかいうよりも、全体として好きか、嫌いかのアルバムにならざるを得ない。嫌いな人にとっては、何だかよく分からん、だらだらと長くて、しまりのない作品でしかないだろう。
それにしても私はこのアルバムがことのほか気に入っている。いまでもたまに取り出して聴く。What’s Going OnでもなくI Want You、Let’s Get It Onでもなく、このアルバムが一番好きなのは、負の情念をここまで美しい音楽に転化させたマービンの才能が悲しく、素敵だと思うから。
Here, My Dear – All Music Guide entry