どちらかというと、喰わず嫌いだったアキ・カウリスマキの映画に興味をひかれたのは、「過去のない男」できちんとメッセージを受取ることができたような気がしたのがきっかけだった。極太の筆で描かれた水墨画という感じの作風は一貫しているけど、そこに映っている日常生活の些細な動作が、違うカルチャーに触れる新鮮な印象を残す。
最近、「ドッペルゲンガー」、「月の砂漠」といった日本の作品を続けて見ていたのだが、これらの作品の舞台と同じ風土で暮らしている私にとっては、コーヒーをすするとか、酒を飲むとか、ハンバーガーを頬張るといった何でもないシーンで感銘を受けることはあまりない。ところが、パリという土地では、ああこんな風にワインを飲むのか、ゴミはこう捨ててるのか、汚い台所っていうのはこんな感じなのか・・・といった具合に生活の断面が妙に楽しく見えてくる。
もうひとつ私が楽しんだのは画面に映し出された登場人物の心の動き。セリフは物語にユーモアとペーソスを添える副菜であって、メインは映像にこそ語らせるというカウリスマキはほんとうにすぐれた演出家だと思う。
そしてタランティーノと同様にカウリスマキ作品には監督の音楽的嗜好が色濃く反映されている印象があるけれど、リトル・ウィリー・ジョンですよ何といっても。ラスト・シーンの「雪の降る街を」もスゴイけど、わたしは「Leave My Kitten Alone」にやられました。自分の好きな音楽が予期しないところで聴こえてきた時のインパクトは相当強い。ウィリー・ジョンはライノが出してるベスト盤が必聴。