ISS

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中学生のとき以来ブルーバックスという科学本シリーズの一冊を手にしている。若田光一著「国際宇宙ステーションとはなにか」。そのまんまのタイトル。文章もかざりっけが無く、ストレートで武骨。でもついつい手を伸ばして読んでしまう。そこには、たとえば宇宙ステーションでの酸素や飲料水供給と二酸化炭素処理、また食事、トイレなど、地上でわたしがごく普通に享受している環境を、どうやって宇宙空間で同じように実現しているのか、そしてそれがどれだけ大変なのかといったことが簡潔にまとめられている。またこの事業はロシアとアメリカが中心となっているため、メインとなる言語は英語とロシア語で、実際のトレーニングも両方で行われるから、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちはその両方に通じている必要がある、などなど。とにかく実際に現場での見聞がもとになっているので迫力というか、説得力が違う。

そして、国際宇宙ステーションというプロジェクトを支えるために必要なチームワーク、プライオリティの決定過程、緊急時の対応訓練がどのように行われているのか、ひとつの間違いや些細なアクシデントが乗組員の生死に直結するような過酷な環境で何か仕事を進めようとしたら、地球上では見過ごされてしまうようなわずかな疑問もすくい上げて処理していくことが求められると著者は言う。譬えが正しいか分からないが、負けることが絶対許されないサッカーチームみたいなものかと。そこにはいわば宇宙好きのジョゼ・モウリーニョが集まってるのだ。若田は常に「Question and do not defend」というアメリカ航空技術者の言葉を念頭において仕事をし、「Situational Awareness」、「運用のセンス」を磨くことにプライオリティを置いている。どのキーワードも地球上で暮らす家族や会社でも通ずる部分は大きいと感じた。

その特殊な環境でさまざまな実験が日々行われ、私たちの地球上での生活の改善のためにフィードバックされているということは、TVとか報道で何となくイメージしてたけど、逆に宇宙空間で人間的な生活環境を整えるために供給される食材、衣服などは、地球上より厳しい基準をクリアする必要があって、そのために技術開発も進んでいるとのこと。事ほど然様に、この本にはあまり「宇宙の神秘」だとか、「美しい地球」賛美、そのほかオカルト的な要素はほとんどない(ブルーバックスだから当たり前か)。若田の宇宙への思いがどのような変遷を遂げてきたのかも気になるところだ。

宇宙との関わり合いは、これから先どんどん増えていくことはあっても少なくなることはないだろう。だけど、この本はそういう視点で書かれてないような気がする。むしろ、大きなプロジェクトを実現するためのハウツー本。だからとても面白くて、得るものも多いけど、宇宙に行ってみたい!という気持ちにはならないんだよなあ。いろんな香りのするマーケットだとか、うまいメシを喰わせる屋台だとか、発見の多い本屋だとか、どっちかというと、そんな場所の方がまだ好き。想像力が足りないせいばかりじゃないと思いたい。

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