“わたしは、実は持ち合わせていない勇気を人に与え、この心にはない希望を吹き込むことができる。また、自分ではよく分からぬことを、或いは垣間見ただけのことを学ぶ意志を人に授けることができる。詩人としてよりも友…”

“わたしは、実は持ち合わせていない勇気を人に与え、この心にはない希望を吹き込むことができる。また、自分ではよく分からぬことを、或いは垣間見ただけのことを学ぶ意志を人に授けることができる。詩人としてよりも友人として、わたしのことを思い出してもらいたいと考えている。ある者がダンバーやフロストの詩の一行を、或いは血を流す木、十字架を真夜中に見た男の詩をくちずさみ、この詩を最初に教えてくれたのはボルヘスだった、と思い出してもらえれば、それで十分だ。他のことはどうでもよい。わたしは一刻も早く忘れられることを望んでいる。われわれは宇宙の企図が何であるかを知らない。ただ、正しく思索し義に従って行動すれば、いまだ知られざる宇宙の企図の実現を助ける結果になるだろうと思っている。”

J. L. ボルヘス 詩集〈幽冥礼讃〉

語らいの中で私たちは求め合い、抱きしめ合い、理解し合った。詩には詩で返し、歌には歌で返し、論理には論理、ジョークにはジョークで返した。

komichi-mado:

語らいの中で私たちは求め合い、抱きしめ合い、理解し合った。詩には詩で返し、歌には歌で返し、論理には論理、ジョークにはジョークで返した。

もちろん愛の言葉には愛の言葉で返した。

ふとした時に交わすハグは格別だった。
彼の孤独や悲しみや寂しさ、喜びや祈りを動物的感覚で感じ取ることができた。
彼もまた同じだったと信じている。

彼の死を知らされた時から、私は泣いていない。泣けなかったし、泣いてはいけない気がした。身を裂かれた想いだったし、彼を交通事故に巻き込んだ乱暴な運転をした青年に何かひと言言いたかったが言わなかった。

彼はすぐそこにいた。誰にも見えてないようだったが、確かにいて、生きていた時のように、陽気でダジャレ三昧でエロかった。あんた、死んでも何も変わらないんだね、と呆れるぐらい変わっていなかった。くしゃみも馬鹿でかいし、寝言も意味不明なことを叫んでいた。

ただ私以外には見えてなくて、彼の存在感を改めて感じて、みんなの喪失感の深さにたじろいだ。目立たない人だったけど、目立たないように大変有意義なことわやっていた人なんだと感じた。

私は彼の今でも生きているように、飄々と私のそばで、くだらないジョークで場を凍り付かせながら私を暖めてくれている。