“技能や藝能を身につけようとする人は、「上手にできないうちは、うかつに人に知られまい。ひそかに学んで十分熟達してから、人前に出るようにすれば、たいへん奥ゆかしく見えるであろう」などとよく言うようであるが、こんなふうに言う人が、一藝も習得したためしはない。
まだまったく未熟なうちから、名人のなかに入って、貶されたり笑われたりしても悪びれず、平気な顔で通して稽古に励む人が、生まれつきの素質はなくとも、倦まず弛まず勝手をせず年月を過ごすと、才能はあるが稽古に励まない者よりも、けっきょくは名人の地位に達し、貫禄もつき他人からも認められて並ぶ者のない名声を得ることになる。”
(「徒然草」・p366)