“私はしばしば読書とは、なにか夢を見るようなことではないかと感じる。ページに目を落として、文字を追っているあいだは、たしかにそこに書かれたことばを知覚し、理解し、味わっているという実感がある。でも、本を読むのを止めて閉じたとき、果たしていま目にしたことばが、どれほど脳裡に残っているだろうか。何が書いてあったかを、要約したかたちで言うことはできても、一字一句再現するというわけにはいかない(そうしようと努めて覚えた場合は別として)。それは、見ているあいだはありありと感じていたはずなのに、目覚めて少し経つと忘れてしまう夢に似ている。”
? 山本貴光著『文体の科学』(2015年5月kindle版、新潮社)